1、権利宣言の目的
(権利をめぐる現状認識)
①わが国労働者の権利は、使用者と国家の基本的な抑制政策によって、著しい経済発展にもかかわらず、きわめて低水準にある。使用者の差別と分断を柱とした労務政策の展開と労働者・労働組合のこれに対抗する運動の後退は、企業の強大な支配力と、職場における圧倒的な使用者優位の権利状況を生み出し、労働者の権利の空洞化・形骸化を招いている。
②第二次大戦後の諸外国の権利水準の発展やーLO条約等に定められている権利水準の向上にもかかわらず、わが国においては権利水準の引き上げは使用者の反対と国の消極的な姿勢によって遅々として進んでおらず、国際的水準からの立ち遅れは今日きわめて顕著なものとなっている。このことはわが国労働者が、産業発展、経済成長、GNPなどにふさわしい権利上の処遇を拒否されていることを意味している。
③日本の労働運動は、この間労使協調路線の下に多数の労働組合が統合され、労働者の生活と意識の変化、組織労働者が四人に一人にも満たないという組織率の低下などの要因もあってその力は減退し、労働者・労働組合の権利確立と向上をめざす闘いは、全体として後退を続けてきた。その結果、多くの企業では「工場の門前で民主主義は立ち止まる」という状況が生み出され、さらに使用者側は規制緩和の名のもとに、これまで保障されてきた労働者の権利をも剥奪しようとする意図を明らかにしている。
④一方、国家的不当労働行為に対する国鉄労働者の闘いをはじめとして、。ハート労働者女性労働者、外国人労働者などの権利のための闘いも粘り強く進められている。また、日本労働弁護団の「労働契約法制」立法化提言や、全労協の「解雇制限法」立法化運動の提起など新たな闘いも開始されている。さらにNGOなどさまざまな分野での基本的人権の確立と拡充をめざす市民運動も広がっている。
⑤こうした権利をめぐる状況のもとで、これまでの権利のための闘いの成果と弱点を総括し、権利闘争を再生・再構築することは緊急の課題となっている。権利宣言はこの課題に応えるべく提起される。
(権利宣言の基本的視点)
①すべての労働者は人間として尊重され、自由と権利が最大に保障されなければならない。労働者は労働力商品としてのみ扱われてはならず、人間としての尊厳を実現するために必要な諸権利が保障されなくてはならない。
②すべての労働者は、募集・採用から退職に至るまでの雇用のあらゆる段階において、人種、皮膚の色、性別、言語、宗教、思想・信条、国籍、社会的出身や身分などによって差別されてはならず、また雇用形態等を理由とする差別的取り扱いは許されない。高齢者、障害者も一人の人間として尊重され、その働く権利が保障されなければならない。
③労働者の権利は、本来労働者一人一人がもっものであり、一人一人の労働者こそが権利の主体である。
④労働者と使用者はあくまでも対等であり、労働者と使用者という個別的労使関係においても、労働組合と使用者という集団的労使関係においても実質的対等性が保障されなくてはならない。
⑤労働組合は労働者の利益を守るためにあらゆる問題について使用者と交渉し、決定する権利を有するものであり、この権利を実効化するための諸権利が保障されなければならない。
(権利闘争の原則と位置づけ〉
①労働者の権利は、労働者自身の闘いなしには確立されない。労働者の権利は、使用者、国家権力との闘いを通じて形成され、闘いの中で定着し、新たな闘いによって伸長する。いったん獲得した権利も、権利を守る不断の闘いがなければ空洞化、形骸化し、そして奪われる。労働者の団結と闘いこそが権利を支える基礎である。
②権利を主張し、権利を獲得していく主体はあくまでも労働者自身である。権利の主体である一人一人の労働者が権利闘争の担い手である。
③労働者の経済的諸条件や生活水準の向上は、労働者の自由や基本的権利の確立と一体のものである。労働者の生活と福祉の維持、向上および政治活動の自由は労働者の権利の保障によってこそ真に獲得されるものであり、権利保障なくして真の生活と福祉の向上は望み得ない。
④権利の侵害は侵害とのたたかいよって排除されなければならず、侵害された権利は完全に回復されなければならない。権利の侵害を許さず、権利侵害とたたかうことなしに権利を維持・確立することはできない。権利侵害とたたかうことは労働者にとって権利であると同時に義務である。
⑤権利は日常不断の努力のつみ重ねによって着実に確立されていくものであり、権利の現状をたえず点検するとともに、権利の学習と実践を通じて権利意識を強化し、権利の定着と伸長を図っていくとりくみが不可欠である。
⑥労働者の権利保障をめざす闘いは、すべての人々の基本的人権のための闘いと不可分であり、労働者の普遍的要求として、企業の枠、産業の枠を越えて社会化すること
によってより広く、より強固なものとして発展する。権利闘争における共闘の追求と拡大は、闘いの発展にとって極めて重要である。
(労働組合の役割)
①労働組合は、労働者の団結によって労働者の自由と権利、人間としての尊厳の確立をめざす労働者の自主的連帯組織である。労働組合は使用者、国家権力、政党から独立し、組合民主主義を確立することによって、労働者の自由と権利の保障をめざす闘いの中心的役割をはたさなければならない。
②労働組合は、すべての労働者・労働組合の権利のために闘うとともに、すべての人々の基本的人権の確立と、平和と民主主義、社会的差別や不公正に対する闘いを自らの課題として取り組み、その社会的責任を果たさなければならない。
(権利宣言の実現)
①権利宣言は労働者・労働組合の当然の権利として保障されるべき権利の内容と水準を示すものであり、権利宣言に掲げられた諸権利は使用者によって承認されるべきことはもとより、国家の立法、行政、司法においても保障されなければならない。
②ILO条約、国連人権関係条約等の批准と国内諸法規の整備、解雇制限法をはじめとする労働契約法制の立法化の闘いを推進することは、権利宣言の実現にとって極めて重要である。
③労働者・労働組合は、使用者に対して権利宣言の掲げる諸権利の承認と労働協約化を要求して闘うとともに、社会的、政治的運動として、国に対して権利の保障を迫る闘いを展開する。これを通じて権利宣言の内容は実現される。
2、労働者の権利
①すべての労働者は、人種、皮膚の色、性別、言語、思想・信条、国籍、社会的出身や身分などによって差別を受けることがなく、法の平等な保護を受け、すべての自由と権利を享受することができる。
②すべての労働者は、あらゆる形態の強制労働を拒否する権利を有する。
③すべての労働者は、思想、良心及び信教の自由を享有する権利、干渉をうけずに自己の意見をもち、発表する権利、集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由の権利を有する。
④すべての労働者は、労働し、職業を自由に選択し、公正かっ良好な労働条件1人間の尊厳にふさわしい生活を自己及び家族に対して保障しうる賃金、安全かつ健康的な作業条件と環境、昇進・昇格の機会均等、労働時間の合理的な制限と定期的な有給休暇とを含む休息及び余暇などーをうる権利を有する。
⑤すべての労働者は、健康で文化的な生活を営む権利を有し、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進を要求する権利を有する。
⑥すべての労働者は、その経済的、社会的利益の擁護、向上のため、労働組合を結成し、これに加入する権利、及び争議に参加する権利を有し、組合員であること、労働組合に加入し、もしくはこれを結成しようとしたこと、あるいは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、解雇その他の不利益な取り扱いをうけることはない。自衛隊、警察、消防等における職員の団結権は保障されなければならない。
⑦すべての労働者は、あらゆる労働条件にっいて、使用者と対等の立場で決定する権利を有する。
⑧すべての労働者は、労働者代表を選出する権利を有し、労働者代表はあらゆる労働条件について、使用者と協議し決定する権利を有する。
⑨すべての労働者は、公正な賃金及びいかなる差別もない同等の労働に対し同等の賃金を受ける権利を有する。
⑩すべての労働者は、正当な理由なくして解雇されることはなく、また本人の同意なき配転、出向、転籍を拒否する権利を有する。
⑪すべての労働者は、失業、疫病、能力喪失、配偶者の喪失、老齢、又は不可抗力に基.っく生活不能となった場合は社会保障をうける権利を有する。
⑫すべての労働者は、週35時間労働、週休2日制、国定祝祭日の有給休日が保障され、この達成によって、自己及び家族の健康と福利のために充分な生活水準を享有する権利を有する。
⑬すべての労働者は、年間最低25日の年次有給休暇と有給による病気休暇、介護休暇、教育休暇、出産休暇、育児休暇・休業、保育休憩、及びボランティア休暇の権利が保障される。
⑭すべての労働者は、最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有し、そのために必要な事項.にっき、使用者に対し、安全・衛生委員会の活動を通じて、点検・立ち入り・監視及び報告を求める権利を有する。また、安全衛生教育、定期的健康診断の実施、労働災害・職業病に対する企業特別補償の権利を有する。
⑮すべての労働者は、危険・有害作業への就労を拒否する権利を有し、年少者、高齢者は、自己の健康の保護のために、時間外労働、深夜労働、危険・有害作業への就労を拒否する権利を有する。
⑯女性労働者に対する差別はすべて禁止される。「募集・採用から退職」に至るまでの雇用のあらゆる段階において、女性労働者は男性と差別されてはならない。女性労働者は母性保護の原則に基づく権利が保障される。この権利の行使を理由とするあらゆる不利益扱いは禁止される。
⑰高齢者、障害者は、そのことを理由に雇用を拒否されてはならず、働く権利が保璋される。
⑱外国人労働者は、この権利宣言の掲げるすべての権利を保障される。
3、労働組合の権利
①労働組合は団結自治の原則に基.つき、自主的に運営し、活動する権利を有する。国及び使用者は、団結自治を尊重し、労働組合の自主的な運営及び活動にっいて介入してはならない。
②労働組合はあらゆる労働者を組織することができる権利を有するとともに、企業の枠をこえて、地域別、産業別に団結する権利を有する。'
③労働組合は、労働条件その他労働者の生活と権利にかかわるすべての事項及び団体交渉その他の労使関係にかかわるすべての事項にっいて使用者及び使用者団体と交渉し、使用者と対等の立場で決定する権利を有する。団体交渉は就業時間内に賃金を保障したうえで行うことを原則とする。
④すべての労働組合は、組合員の労働条件の向上とその経済的、社会的、政治的な地位向上のため争議権を保障され、争議権の行使の時期、方法等について自主的に決定する権利を有する。争議権行使を理由として、使用者は、組合及び組合員に対し一切の不利益を課してはならない。
⑤労働組合はすべての労働条件について、使用者に対し、報告・資料の提出等を求める権利を有するとともに、関係書類につき閲覧、謄写、点検等を行う権利を有する。
⑥労働組合は使用者が組合員に対して行う配転、出向、解雇、昇給、昇格、懲戒等のあらゆる人事上の処置及び教育訓練等に対し、十分な協議のうえ決定する権利を有する。
⑦労働組合は組合員の雇用と労働条件を確保するため、使用者に対し、経営施策等にかかわる情報について報告・開示を求める権利を有する。
⑧労働組合は、労働者の生命、安全、健康を確保するため、生産施設その他必要な施設及び場所あるいは関係書類にっき、点検、立ち入り、閲覧、謄写等の権利を有する。
⑨労働組合は団結活動のための組合費のチェック・オフ、在籍専従、組合掲示板及び組合事務所の設置等を要求する権利を有する。
⑩労働組合は組合員教育、文化・レクリエーション活動等の権利を有し、そのための費用の負担及び企業施設の利用その他便宜供与等を要求する権利を有する。
⑪労働組合は、就業時間内においても、必要不可欠な範囲で組合活動を行う権利を有する。
⑫労働組合は、企業施設内において組合員に対する情報の伝達、教育宣伝、使用者に対する意思表示等のため、集会を催し、あるいは各種文書を配付する権利を有する。